「広東語タイム」     香港日本人学校              教諭 原田 理恵

 

  今回は香港日本人学校中学部ならではの教育活動を紹介したいと思います。といってもそんなに大げさなものではありませんが…。それは,年に十数回,帰りの会の中で5分ほど広東語を紹介する「広東語タイム」です。この活動は今年で3年目になります。「広東語タイム」は次のような背景のもとに誕生しました。

香港の公用語は英語と広東語なのですが,英語がどこでも通じるわけではありません。観光客がたくさん訪れる観光地やデパートなどは大丈夫なのですが,人々の生活の中心となる言葉はやはり広東語です。地元のお店や街市<ガイシ>と呼ばれる市場などでは英語は全くと言っていいほど通じませ

ん。私たちは片言の広東語とジェスチャーで意思疎通を図らなければならないのです。                 広東語が飛び交う街市

 

中学部では通常の英語の授業に加えて週2回英会話の時間があります。英語が得意な生徒はたくさんいます。しかし生徒が広東語にふれる機会は全くないのです。生徒に広東語が話せるかと尋ねたところ,ほとんどの生徒が話せないと答えます。生まれたときから香港で生活している生徒でさえほとんど話せないと言うのです。香港の日本人社会は非常に大きく,生徒たちはその日本人社会の中で日々を過ごしています。広東語どころか英語さえも使わない日々です。香港で暮らしていくのに言葉ができないからといって困ることはほとんどありません。でもせっかく香港に暮らしているのにそれではあまりにも悲しいではありませんか。そこで誕生したのが「広東語タイム」だったのです。現地スタッフの協力のもと簡単なフレーズを録音し,まるでラジオの語学番組のように使い方・意味・発音練習をしていきます。簡単ですぐ使える表現ばかりなので生徒たちは喜んで発音練習をしていました。「こんにちは」「ありがとう」から始まって,「間違い電話です」や「このバスは〜まで行きますか」「安くしてください」などの日常の会話。そして「新年快楽(あけましておめでとう)」などの年中行事に関する言葉も扱いました。言葉を紹介すると同時に行事についても簡単に説明を加えました。不思議な感じがするかもしれませんが,香港に暮らしながらも香港のことを知らない生徒たちが多かったのです。1年目が終わったとき,生徒たちにアンケートを採って「広東語タイム」の継続について検討をしました。その結果およそ9割の生徒が,「役に

教室掲示用のプリント     立った」「続けてほしい」と答えました。知りたい表現につ

いても記述させ,2年目はそれを参考に表現を厳選し,さらに「私が感じる香港」と題して先生方に,香港について好きなテーマで話をしていただきました。「広東語タイム」をきっかけに私たち教師も「香港」を意識することができました。

「広東語タイム」で扱えるのはほんのわずかな表現です。でもそのほんの一言から香港の人との交流が始まるかもしれません。そして,人々の生活に根付いている広東語を知りたい・使いたいという気持ちが生徒たちの中に生まれてくれば,もっと香港のことが分かるようになるのではないかと思います。香港で暮らしている生徒たちが,ガイドブックで紹介されている香港だけではなく,もっと生活感あふれる香港を知って,もっと香港のことを好きになってくれれば最高です。そういう気持ちを育む手伝いができたことはすばらしいことだと思っています。

帰国してはや4ヶ月,香港の都会的なビル群がテレビに映るたび,充実した日々を過ごした香港,そして香港日本人学校のことを思い出します。素直で明るい生徒たち,そして日本全国から来られた経験豊かな先生方とともに過ごした時間によって,何にも代え難いすばらしい経験と思い出ができました。このような機会を与えていただいたことに本当に感謝しています。 再見香港。多謝香港。